スレしれず
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1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 09:56:10.93 ID:7+PusNE9O
新緑が眩しい、五月。空は皐月晴れ。爽やかな風が香る午後、ブーンは目を覚ました。
( ^ω^)「おう…」
ブーンの目に、その新緑が輝くことはなかった。確に目を覚ました。なのに、ブーンは闇の中でただ一人ぼっちだった。
(;^ω^)(なんだお? どうして真っ暗なんだお?)
ブーンは孤独と、焦燥にかられた。もがこうとしても、それすらできなかった。
「先生!ブーン君が!先生!」
「ブーン!!」
突然、女性の声がした。それに続いて、聞きなれた声。
( ^ω^)(かあちゃんの声だお)
ブーンは微かに首を動かして、声の主を見ようとした。
( ^ω^)「カア………チャン?」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 09:59:05.83 ID:7+PusNE9O
J( 'ー`)し「ブーン…!!ああ…よかった……そうだよ。カアチャンだよ………よかった…ほんとうによかった」
少し喋っただけなのに、ブーンの喉はカラカラに渇いた。ブーンはむせこみ、涙をながした。うろたえるカアチャンの声。ブーンは咳をしながら、大丈夫だお、と呟いた。
「ブーン君、具合はどうだい」
低い男性の声が聞こえた。
( ^ω^)「……大丈夫ですお…………ここはどこですお?」
「ここは病院だよ」
( ^ω^)「……………」
「もう……気付いてるかもしれないが………君は……君の視力はもう戻らない」
(;^ω^)「……………え?」
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 10:03:28.58 ID:7+PusNE9O
医者「………信じられないかもしれない。今は、少し休むといい。まだ体が完治していないからね」
看護婦「お母さん、大丈夫ですか?」
J( 'ー`)し「は、はい。私は…」
看護婦「こちら、おいておきますから、水飲ませてあげてください。ブーン君、お大事に。また診察来ますので…」
J( 'ー`)し「ありがとうございます」
( ^ω^)「……………」
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 10:12:30.72 ID:7+PusNE9O
小さなガラスの音。微かな足音。そして、ドアを閉める音。渇いた音だった。ブーンはその音に、強い疎外感を感じた。
静かな、室内。
しだいに、すすり泣く声が聞こえてきた。
J( 'ー`)し「ブーン…………う……あう……」
( ^ω^)「カアチャン………」
J( 'ー`)し「ブーン………ごめんね……うあ……う」
(;^ω^)「泣くなお………カアチャンは悪くないお……」
不思議な気持ちだった。涙すらわかなかった。カアチャンのおえつをただじっと聞いていた。不規則で、どこか時計にも似たそれは、ブーンを無心にさせた。
( ^ω^)(いったい、どうしてこんなことになったお??)
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 10:24:51.98 ID:7+PusNE9O
ブーンは、ただぼんやりと闇の先にあるであろう天井を見つめた。自分の体が思うように動かないことに気付く。微かに腕を動かすと、鋭い痛みが前進に走った。ブーンはそれに驚き、なんとなく何かを悟り、また何かを見つめた。
闇の中に、パッと脳裏を横切るものがあった。
( ^ω^)(これは………?)
一瞬の、色だった。ブーンは目を凝らすようにして、またそれを待つ。
ファン…
今度は、より鮮明だった。それは、ギラギラ光るトラックだった。けたたましい音と共に近付いてくる、トラック。
残像。
それを見て、ブーンは思い出した。
( ^ω^)「ぼくは……トラックにひかれたんだお……」
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 10:39:17.65 ID:7+PusNE9O
ブーンは教育大に進学を決めた18歳の学生だった。
美術の先生になるのが夢だった彼は、よくバイクで河原へ行き、川の絵を書いた。
彼が憧れたのは、スーパーリアリズムの巨匠、上田薫氏であった。その流れを描くみずみずしさ。生命力に感動した彼は、幾度も川を描き続けた。
そして、あの日も川へ向かう途中だった。しかし、雨が降り始め、ブーンは家へ帰ろうとした。
その帰り道に、トラックにひかれてしまったのである。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 10:42:35.35 ID:7+PusNE9O
ブーンは、雨にうたれ形を帰るあの川を思い出した。茶色に淀んだ、川。ただ延々とながれる川を頭に描いた。
どれほど時間が立っただろうか。
カアチャンの泣き声も止んだ頃、再び部屋のドアが開いた。
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 10:48:34.27 ID:7+PusNE9O
医者「ブーン君。気分はどうだい」
( ^ω^)「……………ぼくは、事故に会ったんですお……」
医者「思い出せるかな」
( ^ω^)「…………はいですお」
医者「君は、トラックに衝突して、地面に叩きつけられたんだ。頭から腰にかけて、骨が砕けていた。一時は心配停止。奇跡的に回復した。手足はリハビリでどうにか動くだろう。……しかし、視覚神経がね……」
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 11:07:14.13 ID:7+PusNE9O
( ^ω^)「…………もう、見れないんですかお?」
医者「……もうだめかもわからんね」
( ^ω^)「……………」
J( 'ー`)し「……………」
看護婦「順調にいけば、来月からリハビリに移れますので。幾分麻痺は残りますが」
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 11:08:24.08 ID:7+PusNE9O
その夜、ブーンはじっと考えた。目が見えていた今までのこと。事故のこと。そして、これからのこと。
( ^ω^)(大学は、どうなったお……やっと手にした合格だったのにお……入学手続きとかしたのかお?……)
もちろん、泣いてばかりいたブーンの母は、それどころではなかった。
( ´ω`)(やっとつかんだ夢だお………でも………今のぼくは絵が描けない……お……)
ブーンの頬が熱くなった。そして、涙が伝った。
( ;ω;)(絵が描きたいお…………まだ、この目で………ぬ……)
今のブーンにあるのは、記憶の中の微かな色だけだった。
ただ一つ、鮮やかなのは、皮肉にも事故の光景だった。
「……なんにも、見えないお……………………」
ブーンはひとり、呟いた。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 11:24:35.28 ID:7+PusNE9O
J( 'ー`)し「ブーン」
( ^ω^)「ぬ」
ブーンは母の声で目覚めた。
J( 'ー`)し「おはよう」
( ^ω^)「おはようだお」
J( 'ー`)し「お水飲む?」
( ^ω^)「うぬ、まだいらないお」
看護婦「おはようございますブーン君」
ドアを開ける音と共に、明るい声が聞こえた。
( ^ω^)「おはようございますお」
ブーンはいたって気丈に振る舞った。昨日泣いたせいで、瞼が少し熱っていた。
( ^ω^)(きっと、看護婦さんやカアチャンに気を使われちゃうお!前向きに生きるお!!)
看護婦「点滴取り替えますねー」
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/03/13(月) 11:25:21.81 ID:7+PusNE9O
( ^ω^)「はい、ですお!よろしくですお!」
看護婦の柔らかな指先がブーンの腕に触れた。
(;^ω^)(お、おう?意識が戻ってから、はじめて誰かに触れられたお)
看護婦は針を抜き、丁寧にまた違うところに刺した。
( ^ω^)(いい香りがするお………)
26:付けてみた ◆7i6oOn/cqo :2006/03/13(月) 11:41:18.02 ID:7+PusNE9O
( ^ω^)(こんなに、女の人の指って柔らかかったかお?)
ブーンはぼんやりと考えた。
看護婦「はい、終わり。なんかあったらまた呼んで下さいね」
( ^ω^)「あ、ありがとうですお!」
J( 'ー`)し「いつもいつもすみません」
看護婦「いえいえ、でわ」
パタン、とドアの閉まる音がした。小さな沈黙。
J( 'ー`)し「あー………」
( ^ω^)「か、カアチャン。水飲みたいお」
J( 'ー`)し「あ、そうねえ」
ブーンの母は、ブーンに水を飲ませてやった。
( ^ω^)「おいしいお」
こうやって、ブーンは毎日をベッドの上で暮らした。ブーンは寝たふりをしては気丈に振る舞い、時には涙を流した。
32: ◆7i6oOn/cqo :2006/03/13(月) 11:53:35.53 ID:7+PusNE9O
そんな中、ブーンがよく話す看護婦がいた。あの、いい香りのする看護婦である。
( ^ω^)「そ、そ、その香水なんですかお?」
(*´◇`)「ん?」
( ^ω^)「こ、こうす」
(*´◇`)「あ、これ?アザロだよアザロのオレンジとニック」
( ^ω^)「ほうー(全然知らないお)」
(*´◇`)「蜂蜜の香りがするでしょ?」
( ^ω^)「するお」
(*´◇`)「あー…」
( ^ω^)「ぬ?」
(*´◇`)「そうだね!ブーン君が香り楽しめるように、色々香水持ってこようか!?」
(;^ω^)「ぬ!?そ、そんなことしなくて」
(*´◇`)「遠慮しないでwだってつまんないでしょ?」
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