109 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 01:03 ID:NNGOmrWS0 
マナが帰艦できたことを聞いて、少しだけほっとして溜め息をつく 
それでも、失った犠牲は多すぎるほどだった 
ともに酒を飲み交わしたもの、夢を聞かせてくれたもの、愛するものがいたもの、家族がいたもの 
その未来ある人の命が、理不尽にも奪われていった 
ブリッジの隅で、少女が泣いている 
自分は泣いてはならない 
自分は、艦長なのだ…… 
そのとき、ハンガーから通信が入った 
マナ<艦長! 戦闘に介入して、内藤さんを止めてください!> 
通信機の向こうにいるマナが、いつになく興奮した様子で言う 
(´・ω・`)「どうして?」 
マナ<内藤さん、記憶を無くす前に仲間だった人と戦っているんです!> 
(´・ω・`)「……だが、戦況は確認している。彼ならこのまま敵機を破壊して……」 
マナ<お願いです、艦長!> 
マナの言いたいことは、分かる 
もし彼に記憶が戻った時、仲間の死を聞いたらどれだけ悲しむことだろう 
それも、手を下したのは自分だと 
自分だって止めたい 
止めたいが、彼の仲間はこれから先、多くの地球軍の仲間を傷つけ、殺すだろう 
人一人の心と、多くの人の命 
天秤にかければ、どちらを優先すべきかなど考えるまでもない 
答えなど、決まっている 
110 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 01:05 ID:NNGOmrWS0 
(´・ω・`)「レール砲照準、味方MSと敵MSの中心点。発射と同時に帰艦信号弾射出」 
マナ<艦長!> 
マナが嬉しそうに声をあげた 
自分達は軍人だ 
死ぬことなど、軍に入った時点で決まっている 
だが、彼は記憶を無くし、知るもののいないこの戦艦のクルーのため、自発的に戦ってくれている 
答えはわかっている 
だが、気持ちの悪くなることはしたくないのだ 
(´・ω・`)「って―――ッ!」 
111 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 01:07 ID:NNGOmrWS0 
(  ゚σ゚)「……?」 
突然視界に現われた戦艦が、巨大なレールガンを撃ってきた 
どちらを狙ったわけでもない、単純に邪魔になるだけのものを 
そして、綺麗に光る三原色の光弾を放った 
(  ゚σ゚)「帰艦信号……?」 
CICからも通信が入る 
CIC<内藤さん、帰艦してください> 
ここまで追い詰めて、帰艦? 
何故…… 
気がつくと、あの2機は"レイジ"が"ヘイト"を庇うように撤退を始めていた 
逃がすか 
レバーを持ち上げ、バーニアを噴かす 
すると、さらにもう一発戦艦からレールガンの射撃があった 
今度はこちらに近い、威嚇射撃だった 
(´・ω・`)<内藤君、悪いけど戻ってきてくれ。深追いは無用だ> 
ブーンはそれに眉をひそめながらも、しぶしぶといった感じで母艦へと機体を翻した 
112 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 01:10 ID:NNGOmrWS0 
母艦"イシューリエル"へと戻った彼を待っていたのは、クルーの賛辞と、鼓膜が破れそうになるほどの拍手だった 
クルーA「アンタ凄いな! あんなMSの動き、初めて見たぜ!」 
クルーB「仲間の仇をとってくれてありがとうな。嬉しいぜ」 
クルーC「今度一緒に一杯やろうぜ!」 
クルー達は口々にブーンを褒めちぎり、彼をもみくちゃにする 
ブーンは戸惑いながらも、喜んでそれを受け入れた 
隅で泣いていたものも、ブーンと目があうと会釈をした 
マナ「内藤さん、助けていただいて、ありがとうございました」 
デッキの入り口から現われたマナが、柔らかな笑みを浮かべてブーンに言った 
( ^ω^)「あ、いや、その……。どう、いたしまして……」 
顔を真っ赤にして、ブーンはそれに答えた 
まるで英雄になったような心地に、ブーンは昂ぶり、酔った 
149 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 09:21 ID:VSPlMFrG0 
ブリッジへ上がると、ショボンが待っていた 
(´・ω・`)「急に呼び戻して悪かったね」 
艦長席に腰を下ろしたショボンは、立ち上がってこちらに体を向けた 
( ^ω^)「あ、いえ……。僕も命令を聞かなくて、すみませんでしたお……」 
(´・ω・`)「……こんなこと言うのもあれだけど、大丈夫?」 
( ^ω^)「はい?」 
(´・ω・`)「彼等、仲間だって名乗ってたんじゃないの?」 
先程の戦闘を思い出す 
仲間だと名乗った男は、苦しそうな声をしていた 
( ^ω^)「……あの人たちのことは覚えていないです。でも、止めないと皆を殺して……」 
(´・ω・`)「……記憶が戻ったとき後悔してしまうようなことは、あまりして欲しくないんだ。僕も、マナも」 
( ^ω^)「マナちゃんも?」 
(´・ω・`)「君の戦闘を止めるよう言ったのは、彼女なんだ。君の事をずいぶん心配していたよ」 
( ^ω^)「マナちゃんが……」 
少し、嬉しくなる 
自分のことを案じて、戦闘に介入しろなどという無茶を言ってくれたのだ 
それを聞き入れてくれた艦長にも、感謝の念で一杯になる 
( ^ω^)「艦長も、ありがとうございましたお」 
(´・ω・`)「礼を言うのはこちらだよ。きっと僕達はあそこでお陀仏だったろうからね」 
その後少しばかり事務的な話をして、ブリッジを後にした 
これからも、彼らを守って戦っていこう 
僕にはその力がある 
そして、記憶がないなら今から作っていけばいいんだ 
満ち足りた気持ちで、あてがわれた部屋へと向かった 
150 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 09:28 ID:VSPlMFrG0 
母艦へと戻った彼らの状態は、悲惨なものだった 
"ヘイト"は大破とはいかないものの、脚部を無残にも切りつけられ、しばらくは出撃も出来ないだろう 
パイロットの二人は、それぞれ沈んだ表情をしており、クルーの誰とも話をしないまま、自室へ篭った 
ξ゚⊿゚)ξ「…………」 
(  ゚σ゚)≪はあぁぁぁぁぁぁ!≫ 
殺気の篭った、恐ろしい声だった 
ブーンは生きていた 
だが、敵になっていた 
(  ゚σ゚)≪俺は、お前達の事なんか知らない!≫ 
ξ゚⊿゚)ξ「なんでなのよ、馬鹿……!」 
ベッドへ体を預け、目を瞑る 
涙が枕へと吸い込まれていく 
またか 
泣いてばかりじゃない、私…… 
ベッドに突っ伏していると、突然、部屋のブザーが鳴った 
誰だ、こんな時に 
無視していると、プシュ、という空気の抜ける音と共に、自動扉が開いた 
ξ゚⊿゚)ξ「なによ……」 
('A`)「話がある」 
152 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 09:40 ID:VSPlMFrG0 
('A`)「先程の戦闘。あの戦闘から、いくつかの可能性を考えた」 
ξ゚⊿゚)ξ「なんの……?」 
('A`)「ブーンが何故地球軍にいて、俺たちを敵に回したのか」 
ξ゚⊿゚)ξ「…………」 
ツンは可能性を考えることをしなかった 
もとい、したくなかった 
認めたくなかったからだ 
ブーンが敵になったなど、こんなことは夢だ、間違いだと 
論理的に考えてしまうと、現実味を伴ってしまうから 
('A`)「まず、あいつが助かった理由。おそらく、あの付近に落ちたと考えていいだろう。 
そして、あそこには進水式を迎えるはずだった戦艦がいて、補給を進めていた。 
あの付近には陸地ばかりだったが、水の補給のためのダムがあった。あいつが助かっている以上、そこに落ちたと考えて間違いはない」 
淡々とドクが言葉を進める 
何故そんなに冷静でいられるのか、ツンには理解できなかった 
('A`)「そして、あいつが俺たちを敵に回した理由。単純に考えて、理由は三つ。なにか脅されているか、単純に記憶をなくしているかだ」 
ξ゚⊿゚)ξ「……三つ目はなによ?」 
('A`)「ブーンが"ラジアル"に向かって言っていた、「マナ」という名前。 
女性か男性かは知らないが、向こうの戦艦のクルーに好意を寄せている―――」 
ξ゚⊿゚)ξ「そんなわけない! ブーンがそんな!」 
ドクの胸倉をつかみ、壁に叩きつける 
そんな理由でブーンが私達を、私を裏切るなんてありえない 
ドクは哀れむような目でこちらを見下げている 
153 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 09:40 ID:VSPlMFrG0 
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンがそんな……! そんなこと……!」 
('A`)「現実を見ろ。あいつはさっき俺たちに何をしようとした? 殺そうとしただろう。あいつは、今のあいつは敵―――」 
ξ゚⊿゚)ξ「……っ!」 
ツンがドクの頬を叩いた 
ξ゚⊿゚)ξ「何でそんなこと言えるのよ! ブーンは仲間なのよ!? あなたは、何も感じな―――」 
ツンの言葉を、ドクの張り手が遮った 
はたかれた頬が、じんわりと赤く染まる 
('A`)「俺たちの仲間は、ブーンだけじゃない!」 
ドクはそれだけ言うと、部屋から出て行った 
叩かれた頬の痛みと、避けようのない現実が襲ってきて、また涙が溢れてくる 
よく見ると、ドクが通った場所に、小さな水滴がこぼれていた 
162 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 09:52 ID:VSPlMFrG0 
ヴィネ「ありがとう、先程は助かりました」 
突然誰かが部屋を訪ねてきたと思ったら、見知らぬ女性と、ショボンだった 
目の醒める金髪と、気の強そうなつり目の、綺麗な人だった 
思わずどぎまぎする 
こういう人が好みなのかもしれない 
なんと言葉を返せばいいのか考えあぐねていると、ショボンが助け舟を出した 
(´・ω・`)「この方は地球連合総連の議長さんだ。ヴィネっていう名前。変な名前だよね」 
ヴィネ「……上官侮辱罪じゃないかしら」 
(´・ω・`)「こいつがどうしても君に挨拶したいっていってね。仕方なく連れてきたんだ」 
ヴィネ「……言い方はあれだけど、要約するとそういうことです。本当、さっきは死ぬかと思ったわ」 
( ^ω^)「あ、いえ。その、よかったです、助けられて」 
なんとなく気恥ずかしくなって、頭を掻く 
ヴィネ「本当に、ありがとう。……あと……その、言いにくいんだけど、このままだとこの艦にはいられないのよ、君」 
( ^ω^)「え!? な、なんでだお!?」 
(´・ω・`)「君は記憶を無くしていて、しかも宇宙連合の軍人の可能性もある。個人的には信用できると思うが、形式的には対処しなければならない存在だ」 
( ^ω^)「そ、そんな……」 
163 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 09:55 ID:VSPlMFrG0 
ヴィネ「そこでなんだけどね、あなたを正式に地球連合に迎え入れたいの。階級は少尉で、パイロットとして」 
(´・ω・`)「それがここへきた第二の理由だよ。すぐに答えを出してくれとはいわないけど―――」 
( ^ω^)「すぐにでもその手続きをしてくださいお」 
ヴィネ「本当!? よかった。それじゃあ、この艦の配属でいいかしら?」 
( ^ω^)「はい、喜んで」 
ヴィネ「じゃあ、そうしておくわね。本当にありがとう」 
ヴィネはそれだけ言うと、そそくさと出て行ってしまった 
(´・ω・`)「ったく、あいつは……。ごめんね、内藤君。本当はこんなことはしたくないんだけどね」 
( ^ω^)「いえ、役に立てるなら、なんでもしますお」 
(´・ω・`)「……そうか。では、また後で来るよ。それまでゆっくりと休んで。 
ここは地球連合の領土だから、奇襲でもない限り安全だからね」 
( ^ω^)「はい、ありがとうございます」 
(´・ω・`)「……すまない」 
ショボンが、ブーンを哀れむような目で見つめた 
ブーンには、何故そんな目で見られるのか、理由はわからなかった 
168 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 10:12 ID:VSPlMFrG0 
(´・ω・`)「おい」 
ヴィネ「……なに?」 
(´・ω・`)「ここで何してる」 
ヴィネ「別に? なんで?」 
(´・ω・`)「ここは僕の部屋なんだが」 
当然のようにベッドに腰掛けていたヴィネに、ショボンはイライラとしながら言った 
(´・ω・`)「いいかげん、プライベートと仕事の区別をつけたらどうだ?」 
ヴィネ「……たまにしか会えないんだもの……。いいじゃない」 
(´・ω・`)「……ふぅ」 
諦めるようにショボンも隣に座る 
ヴィネがショボンの肩に、コテンと頭を乗せた 
議長、などといって祭り上げられてはいるが、この女性はまだ三十路も迎えていない小娘だ 
議会の狸どもに舐められ、いいように動かされるしかない人形 
おそらく、心の拠り所など何処にもないのだろう 
―――自分以外には 
(´・ω・`)「まぁ、好きにしろ」 
ヴィネ「そうさせてもらってるわ」 
169 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 10:14 ID:VSPlMFrG0 
静かな時間が過ぎる 
何も言わなくとも、こうしているだけで落ち着く 
ヴィネのことは好きだ 
だが、彼女は議長、自分は戦艦の一艦長、軍人、コマ 
多少の贔屓目は受けているものの、立場の差は歴然としてる 
スキャンダルにでもなったら、彼女の立場が危ういのだ 
なのにこいつといったら……少しは自分の立場を自覚して欲しいものだ 
(´・ω・`)「さっき、彼に提案したのも……」 
ヴィネ「そう……最低だと思うわ。自分のために、人殺しを頼んだんだから」 
(´・ω・`)「…………」 
ヴィネ「戦争、何で終わらないのかしらね……」 
(´・ω・`)「止めようとしない奴等がいるからだ」 
静かな空間に、通信機に連絡が入った 
整備士<例のMSのOSから吸い取ったデータから、技術開発が進められそうなんです。 
それについてご相談があるのですが> 
(´・ω・`)「わかった。すぐ行く」 
ベッドから腰をあげようとすると、こちらを見つめたヴィネが、袖を引っ張っていた 
(´・ω・`)「……わかった」 
顔を上げた彼女にキスを落とす 
満足したのか、行ってらっしゃい、とヴィネは言った 
171 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 10:19 ID:VSPlMFrG0 
( ^ω^)「あ、マナちゃん」 
マナ「失礼しますね」 
ショボンと入れ替わるようなタイミングで、マナがブーンの部屋に入ってきた 
マナ「ちゃんと御礼を言おうかと思って。先程は、本当にありがとうございました」 
( ^ω^)「いや、その……」 
感謝されているのに、なにを緊張することがあるのか、と思う 
言い返す言葉がすっ浮かんでこないということは、記憶を無くす前、僕は女性に感謝されたことがあまりなかったのだろうか 
少し気を落とす 
マナ「さっきの戦闘、すごかったです。なんだか、人が変わったみたいで……」 
賛辞を述べた後、マナの顔が曇った 
マナ「少し、怖かったです」 
172 名前:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 投稿日:2006/03/11(土) 10:26 ID:VSPlMFrG0 
( ^ω^)「そ、そうかお?」 
実を言うと、先程の戦闘のことは、もうよく覚えていないのだ 
夢から覚めたような、霞みがかったような感覚 
マナ「はい。……助けてもらっておいて、失礼ですけど」 
( ^ω^)「いや、べつにいいお」 
マナ「それで、これから内藤さんはどうされるんですか?」 
( ^ω^)「あぁ、この艦に残ることになったお。これからよろしくだお」 
マナ「本当ですか!? なんだか頼もしいです」 
マナがいつもの柔らかい笑みを浮かべた 
感謝されている 
やっぱり、この艦に残ることは、間違いじゃなかった 
マナ「さっき、あのMSのカタログ・スペックを見てきました。……凄かったですけど、なんだか怖いです」 
( ^ω^)「え? どうしてだお?」 
マナ「強すぎます、あんなの。……また、人が一杯死んじゃいます……」 
マナは顔を俯けてしまう 
( ^ω^)「大丈夫だお! ブーンがちゃんと守ってあげるお!」 
哀しそうな瞳を何とか元気づけようと、ブーンが元気よく言った 
マナ「……はい。ありがとう、ございます」 
マナは微笑んだ 
しかし、その目は哀しいままだった 
ブーンは、気付いていなかった 
自分が乗るそれも、「人を一杯殺すもの」だということを
248 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 21:36:53.07 ID:cVQPQZ+d0
(´・ω・`)「それで、なにか取り入れられそうなものはあったの?」 
整備士「ええ、そりゃもう。なにせ、うちの技術力じゃ光学技術で兵器なんて作れないですからね」 
整備士がお恥ずかしながら、といった感じで言った 
宇宙連合は技術の漏れを極度に恐れ、それに対処していた 
破壊された自軍の兵器の残骸も、完全に消滅させるか、回収するといった徹底振りである 
今度のこのMSは、まさに天の恵みといったところか 
この恵みが何を育てるのかは、ともかくとして、だが 
整備士「一度この技術を本部へ送り、次の補給場所で完成したものを取り付ける、という行程を考えているんですけど。どうですかね?」 
(´・ω・`)「…………」 
整備士「……? 艦長?」 
(´・ω・`)「……あぁ、それで頼む」 
整備士「あー、それと副艦長がヴィネ議長どうしますー、って。ここで降ろしたほうがいいんじゃないですか、とも」 
(´・ω・`)「あいつ……じゃない、議長にはここで降りてもらうよ。あれで、なかなか忙しい身ではあるからね」 
249 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 21:41:17.95 ID:cVQPQZ+d0
(´・ω・`)「……誰がきていいって言った?」 
ヴィネ「それが件のMS? 確かに強そうね……」 
(´・ω・`)「無視?」 
ヴィネがスタスタとMSに近づいていく 
取り付いてデータの吸出しをしていた作業員達は会釈をし、道をあけた 
ヴィネは回りに笑顔を振り撒き、MSの前に来ると、それをぺちぺちと叩いた 
ヴィネ「まったく、誰がこんなもの考えて造ったのかしらね……」 
整備士「はじめは、ただの作業ロボットだったって聞いてます」 
ショボンの隣にいた大柄な整備士がヴィネに近づき、言った 
整備士「それをここまで発展させるのも、脱帽もんですけどね。この腕も、手も、スラスターも、ビームも。 
これを工業とか、色々使い道を考えれば、人類はきっと、もっと発展していけますよ。……生き残っていればね」 
ヴィネ「……技術が成長していくのは、いつも戦争という土壌の上なのよね。……悲しいことだわ」 
整備士「ですねぇ……」 
二人はいたたまれない表情で、その「技術」の生み出した成果を見上げた 
ショボンもそれを見上げる 
この鋼鉄の巨人は、我々に何をもたらすのだろうか 
どちらかの終焉なのか、それとも、なにか別の形の―――? 
ヴィネ「あら、そうでもないわよ?」 
突然のその声に、二人は驚いて振り向いた 
視線の先には、デッキには似合わない小奇麗な身なりの闖入者がいた
253 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6:2006/03/11(土) 21:48:30.07 ID:cVQPQZ+d0
(´・ω・`)「前進微速。エンジンに火を入れて」 
操舵士「"イシューリエル"前進微速。発進!」 
巨大な白亜の戦艦が、重力に逆らって空へと飛び立つ 
悠然としたそれは、地球連合の拠点を目指していた 
"アブソリュート"から吸い取ったデータを目的地に送り、到着までに完成したものを装備する 
とりあえずの予定は、そういうものだった 
戦艦の眼下で、さまざまな階級の軍人が手を振っていた 
今朝進水式を終え、晴れて戦艦"イシューリエル"は、戦場へと繰り出していくのだ 
……既に、一度戦闘には遭遇したが 
とりあえずは、順調にこの日を迎えることが出来た 
ヴィネ「順調ね」 
(´・ω・`)「お前がいなければもっとな」 
ヴィネ「む……」 
今朝の進水式を終えて、こいつがついてくると言い張っていた事実を知らない将校達は、大慌てで止めていた 
しかし、議長権限の行使により、強行したのだ 
まぁ、こいつを死なせないためにも拠点では必死の技術開発がおこなわれていることだろう 
唯一心配していた僕との関係も感づかれることもなく、むしろ「頼むから議長をのせたままこの艦を落とすなよ!」と、激励までされてしまった 
255 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6:2006/03/11(土) 22:01:21.64 ID:cVQPQZ+d0
ヴィネ「ねぇ、これから何処へ向かうのかしら?」 
(´・ω・`)「おまえ、進水式寝てたの?」 
何を言っているんだこいつは、という言葉を表情にして振り向く 
ヴィネ「ね、寝てないわよ。失礼ね……」 
(´・ω・`)「進水式で言ってたけど」 
ヴィネ「…………」 
先日と同じように賓客席にちょこんとおさまったまま、ヴィネは黙り込んでしまった 
気付かれないように溜め息をつく 
こうして、しばらくこいつの馬鹿な質問に付き合わなければならないのだろうか 
ヴィネ「た、たまたまそこだけ聞いてなかったのよ」 
(´・ω・`)「5回程言ってたし、お前も言ってたぞ」 
ヴィネ「…………」 
ヴィネが微かに汗をかき、また黙り込んだ 
密かに聞き耳を立てていたのか、艦長席を囲うように座っているクルーが、クスクスと笑っている 
その笑いが自分に向けられていると感づいて、ヴィネは耳まで真っ赤にして恥ずかしがっている 
(´・ω・`)「イザウェルだ。次聞いても教えないぞ」 
ヴィネ「あぁ、あそこ? 議事堂のあるところじゃない。それよりイーダリルの方が、工業は発展してると記憶しているんだけど」 
(´・ω・`)「誰のせいだと思ってるんだ……?」 
ヴィネ「あー……。もしかして私?」 
(´・ω・`)「こいつ、ハッチから突き落としてやろうか」 
また周りのクルーがクスクスと笑う 
今度は自分も恥ずかしくなってきて、憮然として椅子に深く座りなおす 
256 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:09:15.37 ID:cVQPQZ+d0
操舵士「艦長、後はオートパイロットで自動運行です。議長を部屋まで送っていってあげてはどうです?」 
CIC「ちゃんと通信は入れてあげますからー、安心してくださいねー」 
生真面目な操舵士と、噂好きのCICも顔をにやつかせながら、こちらを向いて言った 
ヴィネ「ねぇ、そう言ってくれていることだし、部屋に戻らない? このイス硬くて……。ホントに賓客用なのかしら?」 
(´・ω・`)「黙ってろ。そこに縛り付けるぞ」 
CIC「かーんちょー? 女性には優しくしないと、だーめ、ですよー?」 
操舵士「それについては同意ですね。それに艦長、上官侮辱にあたりますよ、その言動は。 
それと議長、上官命令を発することも出来るんですよ」 
ヴィネ「あ、それもそうね。じゃあ、命令です。私を自室へ連れていきなさい」 
(´・ω・`)「じゃあってなんだよ、じゃあって」 
というか、部下に気を回されている 
艦長としての威厳が…… 
ヴィネ「さ、いきましょ?」 
ヴィネが艦長席までよってきて、袖を引っ張る 
(´・ω・`)「お前は自分の立場というものをわかっていないのかと問い詰め……」 
CIC「艦長ー、私たち誰にも言わないですから、ね?」 
CICの女性が、中学生のようなことを言う 
お前が艦内にあらぬ噂を流したりしていることはわかってるんだぞ 
信頼できるか、と言いたい 
257 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:10:12.12 ID:cVQPQZ+d0
(´・ω・`)「……わかったよ、まったく。では、後を頼む」 
クルー「了解!」 
心なしかはしゃいでいるヴィネを引き連れて、ブリッジを出る 
ブリッジにいたクルー全員の視線を背中に感じたが、もう何も言うまい 
ヴィネ「いいクルーがたくさんいるのね。ずいぶん信頼されているじゃない。たしか、軍学校の自分の生徒が多いんだっけ?」 
(´・ω・`)「そうだよ。信頼されているのか、舐められているのか微妙なところだけどな」 
実のところ、ヴィネには感謝していた 
あの青年をこの艦に引き止めてくれたことを 
彼がいることで、この艦の撃沈される確立は、事実かなり低くなった 
仲間を死なせる確率が下がったことは、単純に嬉しかった 
しばらくヴィネには、借りを返すため、好きにさせてやるか…… 
ヴィネ「ねぇ、私もMSに乗ってみたいんだけど」 
(´・ω・`)「やっぱお前ここで降りろ」 
263 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:23:17.89 ID:cVQPQZ+d0
整備士「どーだ坊主ー? 調整はうまくいってるかー?」 
( ^ω^)「お、おーう。うまくいってますおー!」 
整備士「頑張れよー!」 
先程から整備士が、ちらほらと寄ってきては、声をかけてくる 
MSの調整を出来るのは、今のところ自分だけのようだった 
もとい、自分にしか出来なくて当然といえば、当然なのだが 
( ^ω^)「えーっと、これをこうして……」 
なれない手つきでスペックデータをOSから引っ張りだす 
V-102"アブソリュート" 
それぞれの腕に取り付けられた40ミリ高エネルギービームライフルに、超振動シールド 
そして腰部にホールドされた2本のビームサーベル、RQM70バニッシュブーメラン 
背負うように装備した高機動翼型バーニアススラスター"ランキャイフ"が、このMSの装備している全てだった 
装備の内容から、おそらくこの機体は近接攻撃に特化した、突撃用のMSなのだろう 
それを考えると…… 
( ^ω^)「えっと……ビームサーベルの出力平均値をあげて……ビームライフルにまわしているバッテリー比率を落として、スラスター効率を……」 
最適と思われる設定の変更を、ぶつぶつと一人ごちながらキー叩いて行う 
OSは戦闘から帰艦した後、付けっぱなしになっていた 
OSの解除パスは、調べてみたところ、5963だった 
なんて短絡的な、とも思ったが、なんとなく納得してしまった 
わかりやすくていい 
一通りの設定を終え、座り心地のよいパイロットシートに体を預ける 
264 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:24:21.90 ID:cVQPQZ+d0
( ^ω^)「それにしても……ここの中は汚いお……」 
あの出撃からまだ掃除をしていなかったため、未だにスナック菓子の袋や、空き缶が散乱している 
( ^ω^)「少しくらい、掃除しておくか……」 
昔の自分に呆れた溜め息を吐きかけ、掃除を始める 
コックピットの中は割りとこじんまりとしていたため、掃除というほどでもなかった 
下に誰もいないことを確認して、投げ捨てる 
きっと、誰かが拾って捨ててくれるだろう 
順調に掃除を進めていると、メインモニターの右上の端に、写真が挟まっていた 
( ^ω^)「ん? ……これ……」 
中には、若い三人の男女が映っていた 
うち一人は自分、他の二人は―――1人の顔には見覚えがあった 
ドク、だっただろうか 
青い機体、"ヘイト"に乗っていた、敵軍のパイロット 
そしてその隣の女性、ドクの言った「ツン」という名前 
この二人が一緒にいたのなら、あの"レイジ"のパイロットだろうか 
ふと写真を裏返すと、「死ぬな」と走り書きがしてあった 
女性らしい、可愛らしい丸文字 
( ^ω^)「ツン……」 
無意識にその名前を口にする 
ツン―――写真の中にいる、気の強そうな少女 
むっとしたその表情に、ふと笑みがこぼれる 
写真を撮るときまで、機嫌の悪そうな顔をしなくてもいいじゃないか 
不思議な親しみを感じる 
端整に整った顔立ち、柔らかなウェーブを孕んだ長い髪 
全てに懐かしさを感じる 
266 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:28:42.29 ID:cVQPQZ+d0
マナ「内藤さーん! 昼食にしませーん?」 
マナの声が、意識を現実に引き戻した 
コックピットから下を覗くと、ゴミ袋を片手に立っていた 
どうやら放り出したゴミは、彼女がかたずけてくれたらしい 
( ^ω^)「は、はーい! ちょっと待ってて下さいおー!」 
マナにそう叫び、コックピットへと戻る 
持っていた写真に再び目を向け、そしてクシャリと丸める 
親しみを感じようとも、懐かしさを感じようとも、昔の自分の思い出を壊すことに良心の呵責を感じようとも、これでいいと思った 
今、僕が守りたいのは彼女、彼女の仲間 
敵のことなど、知らないほうがいいのだ 
守るためには、敵を殺さなければならないのだから 
「敵」―――僕達を脅かす、必殺すべき存在 
MSから降りて、マナとともに歩く彼の心に、矛盾は無かった 
267 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:35:07.17 ID:cVQPQZ+d0
マナ「メニューはこれです。なにを食べますか?」 
( ^ω^)「うーん……。マナちゃんのオススメ、っていうのはないの?」 
マナ「えっと、私も軍艦の食堂で食事をするのは、これが始めてで……」 
( ^ω^)「あ、そうなのかお? じゃあ、カレー食べるお。カツカレー」 
メニューの中で、たまたまに目に入ったものがそれだった 
記憶には、昔食べたものがどういう味をしていたのかという情報はなかった 
マナ「げんかつぎ、でカツですか? じゃあ、私もそれを」 
ここの食堂は、メニューを決めたらカウンターへ行き、注文し、出来たらアラームで呼び出してもらうというシステムだった 
注文を終え、再び席へと戻り、雑談をする 
この軍艦の設備はなかなかのものらしく、後から続々と入ってきた整備士の一団が、感嘆の意を漏らしていた 
そういえば、自室もかなりの広さだった 
とはいっても、後からマナと同室になったことがわかったので、結局は二人部屋だが 
先の戦闘で多くのパイロットが失われて、空き部屋は多々あったが、見知らぬ場所で一人では辛いだろう、というクルーたちの配慮から、同室となったらしい 
嬉しくはあったが、要するに体よく監視役をつけたということだ 
まぁ、当然といえば当然だが 
271 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:41:05.87 ID:cVQPQZ+d0
マナ「あ、料理できたみたいですね。行きましょうか」 
まともな食事にありつけるのは、かれこれ何時間ぶりだろう、とふと思う 
昨日は戦闘後、マナの持ってきてくれたお菓子をつまんだ後、クルーと少し話をして寝てしまった 
今日も今日とて午前中はMSの調整で忙しく、食事にはありついていなかった 
なので、憤然と腹の虫も自己主張している 
テーブルに置かれたカツカレーは、さらに腹の虫を怒らせる匂いを発していた 
マナ「じゃあ、いただきましょうか?」 
( ^ω^)「い、いただきますお!」 
パクリと一口 
瞬間、目を見開いて感動する 
( ^ω^)「お、おいしいお! こんなに美味しいカツカレー、食べたこと無いお!」 
マナ「ほんとにおいしい……。なんだか贔屓されてるみたいですね、この艦」 
マナが肩をすくめてみせた 
軍艦の食堂でこれほどまでに美味なる料理が出てくるとは、思ってもいなかった 
どれだけ煮込めばこの味が出るのだろうか…… 
昔食べたものの記憶のない今、このカツカレーの味は衝撃だった 
マナ「議長がいるせいですかね?」 
( ^ω^)「知らないけど、美味いお」 
マナとの会話もほどほどに、カツカレーと格闘する
274 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:46:53.61 ID:cVQPQZ+d0
そんなブーンを見て、マナが呆れながらも、微笑んだ 
マナ「なんだか、兄に似ています。食べ方が」 
( ^ω^)「え、そうなのか?」 
聞き返すと、マナは少し笑った 
しかしすぐにカレーに意識を向け、食事を続行した 
ブーンも特に気にせず、腹の虫に賄賂を贈り続けた 
( ^ω^)「うはー! おいしかったおー!」 
ブーンは大盛りで頼んだカツカレーを、ものの10分で平らげてしまった 
マナ「あ、すいません。ちょっと待ってて下さい。すぐに食べ終わりますから」 
一方マナは、女の子らしいというか、半分も食べられていなかった 
( ^ω^)「あ、気にしなくって―――」 
『あのね、前にも言ったでしょ? 女の子とご飯食べる時は、食べ終わるスピードをあわせなさい、って』 
( ^ω^)「……?」 
『わかったらさっさとお代わりでもしてきなさい!』 
( ^ω^)「は、はい!」 
マナ「え、え? ど、どうしました?」 
マナがカレーを口に運ぶ動作のまま固まり、周りで食事を勧めていたクルーもしっかりとこちらに目を向けていた 
今、誰かの声が…… 
( ^ω^)「お、お代わりお願いしますお」 
と、とりあえず今はこの状況を何とかしないと…… 
結局、ブーンはその後マナが食べ終わるまでカレーを食べ続け、気分を悪くして医務室でおとなしくしているはめになった 
279 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:51:48.50 ID:cVQPQZ+d0
マナ「あの、大丈夫ですか?」 
( ^ω^)「もう、しばらくカレーは見たくないお……」 
マナ「なんでそんなになるまで食べたりするんですか……。そんなにお腹すいてました?」 
( ^ω^)「いや、その……」 
困った顔をしたマナが、ベッドサイドに座っている 
誰かの声が聞こえて―――などと言ったら、どんな顔をされるかと考えて、言うのをやめる 
それにしてもマナは食べるのが遅かった 
猫舌なのだろうか 
これからはゆっくり食べないと、食事のたびにこんなことになってしまう 
( ^ω^)「あ、まぁ、その……気分、かな?」 
マナ「そうですか。でも、気をつけてくださいね。私たちは普段から、何時でも戦闘に望めるようにしておくことも、大切なことですから」 
( ^ω^)「わかったお。気をつけるお」 
そこで話に区切りがついた 
( ^ω^)「…………」 
マナ「…………」 
互いに話題が見つからず、気まずい沈黙が流れる 
283 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 22:58:56.44 ID:cVQPQZ+d0
そこでふと、食事時にマナが口にしたことを思い出した 
( ^ω^)「あの、マナちゃんのお兄さんって、どんな人だったのかお?」 
マナ「……兄は、死にました」 
( ^ω^)「あ……」 
誤魔化すように、マナは小さく笑う 
またまずいことを言ってしまった 
前回の戦闘前といい、今といい…… 
マナ「一昨日、宙域で小規模な戦闘があったんです。そのときに……。パイロットだった兄は、戦闘に出て死んだんです」 
マナの顔が、俯き、影を帯びる 
生糸のように綺麗な黒髪が、彼女を追って肩に落ちた 
憤りを覚える 
こうも簡単に人の命を奪っていった、奪っていく敵に 
許せない、絶対に 
何故この少女が、理不尽にも不幸にならなければならないのだろう 
( ^ω^)「……ひどすぎるお」 
マナが自嘲的に呟く 
マナ「仕方が無いですよ。兄は軍人ですから……私も」 
( ^ω^)「仕方なくなんか無い!」 
つい大声をあげる 
何故諦めるようなことをいうのか 
兄を、肉親を、大切な人を殺されて、悲しくないはずが、悔しくないはずが無い 
( ^ω^)「僕が仇を討ってあげる。マナちゃんのことも、お兄さんの代わりに守る。……絶対に」 
マナ「ブーンさん……」 
マナは複雑な表情を浮かべた後、泣きそうな顔で微笑んだ 
彼女が心から笑える日が来るよう、頑張ろう 
彼女を守り続けていれば、きっとその日はやってくる 
ブーンは、そのとき強く心に決めた 
288 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 23:10:05.99 ID:cVQPQZ+d0
兄が死んだと聞いたのは、件の戦闘が終わってすぐだった 
二階級の特進により、少佐となった兄は、英雄と祭り上げられていた 
敵新型MSに、兄の所属していたMA隊は全滅した 
しかし、そのMSは撃破 
胸が張り裂けそうだった 
行き場の無い悲しみが、体を突き破る 
どうして兄が死ななければならないんだ 
その敵さえいなければ、兄は死ななかっただろう 
仇をと、殺してやると思った 
そして、運命の悪戯か、MSが天から降りてきた 
貯水ダムに盛大に飛び込み、生き長らえた 
パイロットは少年だった 
人の良さそうな、可愛らしい少年 
自ら名乗り出て、医務室での見張りを引き受けた 
殺してやろうと思っていた 
しかし、その等身大の「敵」は、自分と違う存在ではなかった 
ただ私達を殺そうと、鉄の巨人に乗って襲いくるそれの中には、同じ人間がいた 
何処も何も変わらない、私たちと同じ 
この少年を―――敵を殺せば、敵の大切な人は哀しみ、怒り、私を憎むだろう 
兄を、肉親を、大切な人を殺されて、悲しくないはずが、悔しくないはずが無いのは、私だけじゃない 
私と同じように、誰もが苦しい 
289 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 23:10:41.15 ID:cVQPQZ+d0
少年は言った、私を守る、と 
複雑に絡み合う縁が、恐ろしかった 
守るということは、敵を殺すということだ 
少年の敵は、少年のかつての大切な人たち 
連鎖していく憎しみを、止めたかった 
もうやめて、殺すのも殺されるのも、悲しいのも悲しまれるのも、もうたくさんだ、と 
優しい少年が、苦しむ姿を見たくない 
しかし、心の奥底が、兄を死に追いやったであろう少年の苦しみを欲していた 
殺して殺して殺して、壊れる少年の嘆きが聞きたい 
自分を嫌悪する 
戦争は人の心を麻痺させ、腐らせ、蝕んでいく 
私は、苦しい 
296 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 23:23:35.74 ID:cVQPQZ+d0
アイベル「ブーン君が……」 
ξ゚⊿゚)ξ「だから、戦いたくない」 
彼女―――アイベルは軍学校時代にドクと同じ時期に知り合った先輩であり、友人であった 
面倒見のいい性格で、昔から何かと自分の事を気にかけてくれていた 
相談を持ちかければ自分のことのように共に悩んでくれたし、訓練でミスをすればちくちくと嫌味を言った後、有用なアドバイスをたくさんくれた 
自分がトップガンに選ばれたことを聞いて、一番喜んでくれたのは彼女だった 
彼女は時々相槌をしながら、話を最期まで聞いてくれた 
ブーンが死んで泣いたこと、自分がブーンに好意を寄せていたことに気付いたこと、後悔したこと、"アブソリュート"を見たときどうしようもない怒りを感じたこと、そして―――その機体の主は、生きてこちらの敵に回ったこと 
アイベル「さっきは悪かったわ。……無神経だったわね」 
彼女は、私と共にブーンが特進したことを知らなかったのだ 
今それを聞かされた彼女は、酷く悲しんでいるようだった 
ブーンも私もドクも、この人の後輩なのだ 
ξ゚⊿゚)ξ「でも、心配してくれていたんでしょ?」 
そう返すと、アイベルはふふっ、とはにかんだ 
アイベル「でも、どうするつもり? 戦闘に出てこないつもりなら、私たちだけで何とかするけど」 
アイベルは気を遣ってくれているようだ 
しかし、アイベル達だけでは、到底ブーンには敵わないだろう 
パイロットも機体も、格が違いすぎる 
ξ゚⊿゚)ξ「……私も、でる。……仕方が無いわ。私の仲間は、ブーンだけじゃないもの」 
ドクがいった言葉を、復唱する 
アイベルも、ドクも、他の仲間も、大切な仲間、大切な人たちなのだ 
守らなければならない、敵から 
ブーンは……敵…… 
アイベル「そうね。……でも、彼だって仲間よ。……無理かもしれないけど、連れ戻せるようやってみましょう?」 
アイベルが微笑んだ 
私は、その優しい仲間の胸で、泣いた 
299 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 23:30:12.36 ID:cVQPQZ+d0
柔らかな感触と、人肌のぬくもりを感じて、心臓が勝手に狂ったリズムで動き出す 
同じベッド、隣でマナが寝ている 
男女を同じ部屋に放り込んだうえ、ダブルのベッドが一つとはどういうつもりなのか 
昨日やけにクルーがニヤニヤしていたのは、こういうことだったのか 
感謝の念を必死で押し殺し、悪魔共め、と心の中で罵る 
おかげで寝不足ではないか 
規則的な寝息が、まだマナが夢の中で過ごしていることを教えてくれる 
寝返りを打ち、マナの方に体を向ける 
その寝顔が、男としての部分をなんともいえない気持にさせる 
( ^ω^)「す、少しくらいなら何かしたって……。わ、悪いのは僕じゃないお、こんなことした皆だお」 
そう自分に言い訳し、マナの体に手を――― 
(´・ω・`)<ブリッジより内藤少尉、ブリッジより内藤少尉。至急こちらへ> 
のばせなかった 
300 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 23:31:50.89 ID:cVQPQZ+d0
マナが、今の放送で目を覚ましてしまった 
少し溜め息をつき、なにを押えながらベッドから出て、軍服に着替える 
マナ「あ……おはよう……ございます……。召集ですか……?」 
目を擦りながら、マナは欠伸をかみ殺しながら言った 
服のはだけたところに目を向けないようにしながら、今のは自分だけ、と伝える 
マナ「そうですか……じゃあ……」 
と言うと、こてんと力尽きた 
朝、弱いのだろうか 
ブリッジへ上がると、自分と同じように目の下にくまを作った艦長が待っていた 
( ^ω^)「艦長も寝不足なんですか?」 
(´・ω・`)「も、ってことは君も……?」 
しばらく沈黙が続く 
艦長と心が通い合った気がした 
(´・ω・`)「ごめんね、こんなに朝早くに。実は、進行方向に以前戦った敵艦がいるらしいんだ。向こうは気付いてないのか、待ち伏せているのか知らないけど」 
( ^ω^)「また、ですか?」 
(´・ω・`)「そう、またなんだ。すまない」 
( ^ω^)「艦長が謝ることじゃないですお
302 ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/11(土) 23:33:13.70 ID:cVQPQZ+d0
その後、熟睡していたマナを起こして食堂へ向かった 
もしかしたら自分は、マナちゃんの目覚まし代わりという役割もかねているのではないだろうかと考え、すぐにやめた 
朝食をとろうと食堂へ向かったが「私、朝ごはん食べられないんです……」と言われてしまい、しかたなくドリンクだけ貰ってデッキへと向かった 
マナ「また戦闘になるんですね……」 
機体を立ち上げて微調整を終え、後を整備士任せにしてパイロットルームで休憩している時に、マナが呟いた 
未だに眠気が拭えないのか、マナはブラックのコーヒーを先程から飲み続けている 
( ^ω^)「大丈夫だお。皆で戦ってるんだし、負けたりなんかしないお」 
マナは、そうですねと言い、悲しげに微笑んだ 
マナ「なにか、戦略でも考えますか?」 
コーヒーを飲み終えて、手持ち無沙汰になったマナが唐突に提案した 
戦略、といわれても…… 
( ^ω^)「僕、そういうの考えるのあんまり得意じゃないんだお……」 
マナ「そうなんですか? というか、二人しかいないですし、戦略も立てようが無いですかね。……内藤さんの機体は突撃仕様ですから、攻撃の邪魔にならないよう後退して、サポートに回りますね。どこまでできるかわからないですけどね」 
戦力差の激しいMSとMAがタッグをくむとなれば、この陣形が自然だろう 
そしてこうなった以上、自分の責任は重大だ 
自分にこの艦の人間全ての命運がかかっていると言っても、過言ではないかもしれない 
( ^ω^)「(皆を守るって決めたんだ。負けるわけにはいかないお)」 
そう考えると、力がみなぎってくる 
マナ「あまり、気負わないで下さいね。……内藤さんが死んだりしたら……悲しい、です」 
気恥ずかしそうにマナは顔を伏せる 
隣に座り、肩を抱―――けずも、言う 
( ^ω^)「大丈夫、僕は死なないお」 
今考えうる、精一杯の気の聞いた言葉を捜し、口にする 
しかし、マナはいつかの複雑な顔で微笑んだ 
どうやったら彼女を喜ばせることが出来るのだろうか、と内心で考える 
戦功を上げれば、きっと彼女も喜んでくれるだろう 
ブーンは次の戦闘で活躍する自分を夢想して、にやついた 
PR