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【2024/04/20 22:33 】 |

( ^ω^)ブーンはガンダムのパイロットのようです part5
56:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:31:16.65 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「シオンタウン?」
(´・ω・`)<……エリュシオンだよ。次はそこへ行ってくれってさ>
修理とメンテナンスが終わって"イシューリエル"に戻ってきた"アブソリュート"に取り付いて、OSの調整をしていると、ショボンから通信が入った
いちいちこんな一兵卒に連絡なんてしなくてもいいのに、と思うが、そこはパイロットへの配慮なのだろう
(´・ω・`)<エリュシオンは中立の国。……技術協力を申し込みに行くんだ。あの国は、いろいろと裏でやっているらしくてね。
技術力は世界一かもしれない、っていう説もある。……まぁ、望み薄ではあるけどね>
( ^ω^)「ということは戦闘はなし、ですかお?」
(´・ω・`)<多分、ね>
通信を切り、コックピットを後にする


58:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:34:31.22 ID:rlUn0EfG0
自室へと足を進めると、アイベルとはちあった
松葉杖を片手に、クルーと共に歩いていた
アイベル「こんにちは」
( ^ω^)「…………」
アイベル「エリュシオンで降ろしてもらうことになったの。あの国を介して帰るの」
( ^ω^)「そう、ですかお……」
あれ以来アイベルとは、一度も口を交わしてなかった
彼女は昔を知っている
彼女といると、自分が他人の宝物を壊そうとしている、最低な人間に思えてくる
アイベル「……じゃあ、ね……」
短くそう言うと、アイベルはブーンの横を通って、すっと行ってしまった
ちらりと横目で盗み見た横顔は、悲しいような、悔しいような感情が滲んでいた
いたたまれない気持になる
俯きながら、とぼとぼと自室へと戻った
部屋の中では、マナが椅子に座ってを転寝をしている
こっそりとその寝顔を覗くと、悲しそうに眉根を寄せていた
マナ「兄……さん……」
( ^ω^)「…………」


62:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:36:56.13 ID:rlUn0EfG0
裏切り者
あの時の男の言葉が、再び痛みを伴って頭に響く
マナの兄を殺したのは、自分かもしれない
偶然、たまたまにその場に居合わせていなかっただけで、もし戦場で会ったなら、きっと殺していた
先の二回の戦闘のように、敵として、簡単に
( ^ω^)「……僕は……」
誰かの大切な人を奪って、殺して
でも、仕方ないじゃないか
そうしないと、大切な人を守れない
自分だって殺される
そんなのは、嫌だから
マナ「……あ、ブーンさん。……すいません、寝ちゃってました……」
目を覚ましたマナは、眠そうに目を擦りながら言った
( ^ω^)「いや、気にしなくていいお。寝てなよ」
マナは頷くと、よたよたとベッドへ向かい、布団を被って寝てしまった
手持ち無沙汰になったブーンも、上着を脱いで、ベッドに入った
空調の音しかしない静かな空間で悲しい二人は、背を向け合って、現実から離れていった


64:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:38:57.04 ID:rlUn0EfG0
エリュシオン・コントロール<エリュシオンへようこそ。第3ホームへ艦を入れてください>
オートパイロットは、予定どうりにAM9時にエリュシオンへと艦を導いてくれた
(´・ω・`)「入港許可を感謝する、と打電を」
既にブリッジに上がっていたショボンは、眠そうに目を擦るCICに指示を出した
(´・ω・`)「どうした? なんだか眠そうだけど」
CICはこちらを赤い目でちらりと見ると、鼻で笑った
CIC「艦長やブーン君と同じですよ」
言っている意味がわからず、眉根を寄せる
隣で操舵士が、大あくびをした
(´・ω・`)「ブーン君、起きてる?」
艦内通信でブーンを呼び出す
一拍置いて、眠たげな声が返ってきた
( ^ω^)<はい……なんですかお……>
(´・ω・`)「今日は、君を自由行動とする。マナ君には後でブリッジへ上がるよう伝えておいてくれ」
( ^ω^)<あ、はい、わかりましたお>


65:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:39:39.52 ID:rlUn0EfG0
パチンと通信機のスイッチを切る
体を前に向けると、ブリッジの全クルーから不満の目線が、こちらに集中していた
一瞬、思わずたじろぐ
CIC「私達だって休みたいですよー。ねー?」
操舵士「え? あ、えと……はい……」
(´・ω・`)「……あのな。イザウェルで新しい武装がついたろ? お前等はそれのスペックデータと、使用説明書をちゃんと読んでおくの。実践で使えないようじゃ……」
CIC「はいはい、わかりましたよー」
不貞腐れたように呟いて、目の前の計器に目を向けた
周りで不満の目をこちらに向けていたほかのクルーも、近くにいるクルーと話しながら、和気藹々と作業をはじめた
ほっと溜め息をつき、席を立つ
色々と事情があることを、彼等は理解してくれている
ブーン君は、おそらくここにいる誰よりも辛いはずだ
せめて気の晴れることが、何かあればいいのだが……


66:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:42:14.35 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「ということだお。じゃあ、ちょっと外に出てくるお」
マナ「あ、はい……いってらっしゃいです……」
寝ていたマナにブリッジへ上がるよう指示がきていた旨を伝え、バイクを借りて外へ出た
なんとなく、艦から離れたかったのだ
エリュシオンと言う名のこの国は、中立、戦争に参加したくないという国だ
酷い嫌悪感はないが、違和感を感じる
自分たちだけが安穏と暮らし、殻に閉じこもって外を見ないようにしている
僕達が辛い思いをしていると言うのに
……辛い?
何故辛いと感じるのだろうか
そもそも、なんで戦争なんか……
バイクを走らせながら考え事をしていると、すぐ前に人が歩いている事に気付かなかった
( ^ω^)「うわっ!?」
???「…………」
慌ててハンドルを切り、避ける
しっかりスピードを落としたところで、バランスを崩して、こてんと倒れた
( ^ω^)「あだっ!」
無様にうつぶせに倒れる
なんだか情けなくなって、しばらく突っ伏していると、足音が近づいてきた


67:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:43:47.42 ID:rlUn0EfG0
???「前方不注意はよくないな。それに、ヘルメットをつけないで走ることは、この国においては処罰の対象になるぞ。知らないのか?」
擦りむいたのか、ズボンの下で膝が心音に合わせて熱を持っている
ふと顔を上げると、淡い青色の髪の女性が、眉根を寄せてこちらを見下ろしていた
( ^ω^)「あ、ご、ごめんなさいお。大丈夫でしたかお?」
???「……それより、そなたが無事なのかが、私は知りたいんだが」
たしかに彼女にはぶつかっていないし、盛大に転んだのは自分だ
というか、なんだか機嫌が悪いのか、ブスッとしている
( ^ω^)「あ、え、っと……。ぼ、僕は大丈夫ですお! それで、あなたは?」
???「私か? 私はヱイルという。そなたは?」
( ^ω^)「あ、そういうことじゃなく……」
ヱイル「名は明かせぬか? それでもよい。それより、傷を見せろ」
ヱイルと名乗った女性は、スタスタとこちらに近づいてくると、ブーンのズボンに手をかけた
( ^ω^)「ちょ、まって、待ってお!」
思わず声を上げる
突然何をしようというのか
ヱイル「なんだ?」
( ^ω^)「え? いや、だ、大丈夫ですから……」
ヱイル「血が滲んでいるぞ。安心しろ、取って食おうというわけではない」
いや、そういうことじゃなく、と言う前にズボンを脱がされた
血止めにと、簡単にハンカチを傷口に巻いてくれた
ヱイル「さっさとズボンを穿くがいい」
何だこの人、と思いつつ、傷口に触れないように身に着ける
ヱイルはわざとらしく咳をすると、立ち上がった


68:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:45:32.62 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「あの、ありがとうございました。いつか、お礼をさせてくださいお」
人当たりのいい笑みを浮かべて、ブーンが言った
ヱイル「いつか、とは? そなた、この国のものではないだろう? ここに住み着くつもりか?」
( ^ω^)「え? いや……」
ヱイル「そうか。ならば礼の事は気にするな。では、失礼するぞ」
そう言うと、体を翻して行ってしまう
なんだか悪い気がしたので、呼び止める
( ^ω^)「あの! 今からお礼してもいいですか?」
ヱイルは足を止めると、ブーンへと向き直った
ヱイル「かまわぬが……。なにをしてくれるというのだ?」
( ^ω^)「え……」
懐は依然として、寒い
それにこの国のことは、何も知らない
人気の無いこの場所には、娯楽施設のようなものも、飲食店も見当たらない
きょろきょろと辺りを見回しながら、ハツカネズミのようにカラカラと思考をまわしていると、ヱイルが助け舟を出してくれた
ヱイル「ならば、行かねばならぬところがあるのだが、送ってはもらえぬだろうか」
( ^ω^)「あ、はい! わかりましたお!」
それならば、と意気込んで答え、バイクの後部座席をぽんと叩く
しかし、ヱイルはスッと目を細めると、言った
ヱイル「今そこで事故をおこしそうになった者の運転するそれに乗れ、と?」
( ^ω^)「う、うぅ……」
ヱイル「歩いていくぞ」


69:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:47:32.41 ID:rlUn0EfG0
(´・ω・`)「この国の技術力を、地球連合にお貸しいただきたいのです」
ネルガル「技術、ですか?」
官邸へと連れいかれると、首長だという名乗る男に賓客室へと案内された
細い線と、少し長めの柔らかい青の髪でのせいで、女性かと勘違いしたが、透き通ったテノールの声で男性だとわかった
ネルガル「我が国には、戦争に使えるような技術はありませんが……」
申し訳なさそうな言い方で、首長ネルガルはそう言った
推し量るようにその目を見つめるも、悪意や隠し事をしているような違和感を感じることは無かった
ネルガル「その要求にはこたえられませんが、もう一つの件については迅速に対応させていただきますね」
もう一つの件―――捕虜のことだ
中立の国を介すことで、双方で納得のできる捕虜返還が実現される
爆弾と共に捕虜が戻ってくるなどということがないからだ
(´・ω・`)「本当に技術は無いと?」
ネルガル「はい。……わざわざご足労いただいたのに、ご期待にそえなくて申し訳ないです。何分、中立の国家ですから」
ネルガルはふわりと微笑む
外交はどうも苦手だった
特に、相手が好意を抱かせるようないい人間だった時など、特に
この目の前に座る人物からは、誠実さしか感じられない


70:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:49:04.85 ID:rlUn0EfG0
(´・ω・`)「わかりました。本部へは、そう」
そう言うと、ネルガルはぺこりと頭を下げた
ネルガル「それにしても、戦争はいつになったら終わるのでしょうかね……」
(´・ω・`)「さぁ、それはわかりかねます」
正確に言えば、終わるかもしれなかった
圧倒的な物量差でMSを量産させ、叩き伏せる
そして、地球軍の勝利
宇宙連合が新しい力を持っていなければ、だが
ネルガル「悲しいですよね、同じ人間同士が争うなんて……。この戦争も、昔の戦争も」
ネルガルがスッと目を細めて言った
ネルガル「いつか、互いに手を取りあい、共に助け合っていけるようになると、いいですね」
彼の言葉は、綺麗だ
しかし、虚しくもそれは理想論、戯言に過ぎない
一人叫んだところで、誰も耳など傾けてなどくれない
一つの正論よりも、向けられる銃に皆目が行ってしまう
それよりもしかし、何故だろうか
今まで感じなかった違和感を、彼に感じた
それはあまりに滑らか過ぎる、彼の口調のせいだろうか
ネルガル「ゆっくりとしていってください。平和の国は、安全ですよ」
柔らかく微笑む男に、礼を言い、官邸を後にした
胸に、正体のわからない違和感を抱えて


71:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:51:45.51 ID:rlUn0EfG0
ヱイル「そなた、今度の戦争をどう考えている?」
( ^ω^)「え?」
整備士が遊びで改造しまくったのだろう、やけに重いバイクを引きずって歩いていると、隣でヱイルが言った
ヱイル「馬鹿げているとは思わぬか? 同じ人間同士殺しあって」
( ^ω^)「…………」
ヱイル「一体何の戦いなのだろうかな、この戦争は」
元々愛想のいい顔ではないが、更に眉根を寄せて、不機嫌そうな顔になる
ヱイル「宇宙の人間が力を持ち、地球の人間はそれを恐れた。それはわかる。だが、何故戦争なのだ? 互いに手を取り合うという道は無かったのか?」
自問自答のような問いを、ヱイルが呟く
世界は、昔から戦いを積み重ねて歴史を繰り返してきた
気に入らないから、のし上がりたいから、裕福になりたいから、何かを守りたいから
そう言って、人は戦いを繰り返してきた
そして、銃を撃つだけが戦いではない
人を陥れ、見下し、蔑み、罵って
憎み、妬んで
人の本質は、どう着飾っても、それだ


72:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:53:12.21 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「でも、そんなことは皆わかってるお。でも撃ってくるかもしれない、撃ってくるなら、撃ちかえさなきゃいけない。大切なものを守るために」
だからこそ、大切なものを守る
慈しみあって、想いあって
ヱイル「そんなことだから戦争が終らぬのだ!」
歩みを止めて、ヱイルが怒鳴った
その剣幕に押され、少しびくりとする
ヱイルは言葉を続けた
ヱイル「大切なものを守るという、体のいい言い訳を隠れ蓑に、どうでもいい人間を撃つか? 殺すか? それが誰かの大切なものだというのにもかかわらず?」
( ^ω^)「で、でも……」
ヱイル「銃を置かねば戦争は終らぬ。間違っていることに何を重ねても、正しくなったりはしない!」
( ^ω^)「じゃあどうすればいいんだお!?」
思わずブーンも激昂する
あまりの言い草に、腹が立ったのだ


73:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:53:37.55 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「そんなこと言ったって終らない! 銃を置いて『もうやめよう』て言って、後ろを向いたとたん撃たれたらどうするんだお!? そんな奇麗事なんか言ったって、誰も聞いてなんかくれない!」
ヱイル「それは……!」
( ^ω^)「自分は安全なところにいるくせに、勝手なことを言うな!」
しばらく睨み合う
二人の背後で、小型の飛行機が青白い空を駆けていった
立つ位置の違うものが、理想を、現実をぶつけ合う
ヱイル「……もう止そう。そなたとこんな話などしても、何も変わりはしないだろう」
そう言うと、ヱイルは歩き出した
ヱイル「もうここまででよい。目的地は近い。……そなた、名は? やはり明かせぬか?」
( ^ω^)「内藤、ホライゾンだお」
ヱイル「……覚えておこう」
二人は互いに背を向けて、それぞれの場所へと帰っていった


74:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:54:39.90 ID:rlUn0EfG0
アイベル「艦長、ご迷惑をかけて、申し訳ありませんでした」
艦長「いや、君だけでも無事でよかった。どうやらあの艦の艦長は、ずいぶんと優しい人間のようだな」
解放されてすぐ、小型の飛行機へと押し込まれた
傷の痛みと、敵艦ということで緊張が続いていたので、思わず安心して惰眠を貪ってしまった
目を覚ますと、母艦へと戻っていた
艦長室へと足を運び、無事を伝える
艦長「しかしあの機体、"アブソリュート"は厄介だな」
私の返還のため、母艦はエリュシオンの領空の少し外で待機していた
戻った際、ちらと覗いた格納庫には、"レイジ"と"ヘイト"、そして"ストラス"と2機の"ハルパス"が収まっていた
艦長「補給は受けたものの……。はたして、これだけの機体で倒せるのだろうか……」
同じVナンバーの機体2機でかかっても敵わなかった機体と、艦長は"アブソリュート"を自分の中で大きくしてしまっているようだった


75:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 00:54:59.42 ID:rlUn0EfG0
そういうことではない
単純な戦闘能力は、ブーンよりもドクの方が上なのだ
割り切れているか、いないかの問題だ
アイベル「……おそらく、墜とせます」
控えめな口調で言うと、艦長は怪訝そうな顔でこちらを見た
艦長「何故?」
アイベル「私は捕虜となった際、敵のパイロットと接触しました。その時、相手を混乱させられるようなことをいくつか告げてきました。戦闘力は、落ちているかもしれません」
その後、少しだけ形式的な話をし、艦長室を後にした
少し話をしようと、ツンの部屋へと向かう
ツンの部屋の自動ドアは鍵もかかっておらず、簡単に中に招き入れてくれた
部屋の中、ツンはベッドに寄り添って、膝を抱いていた

85:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:00:58.18 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「あの……。アイベル、いる?」
軍学校、アイベルにあてがわれた寮の部屋へと足を運ぶ
一日の訓練行程を終え、それぞれが消灯時間までの時間を過ごしている時間だ、おそらくいるだろう
外に目を向けると、人工の空がとろりとしたオレンジを、コロニーに落としていた
後ろ手にバッグを持って、そわそわとしながらアイベルを待つ
出てきた彼女は完全にリラックスしていたのか、上下共にラフなジャージ姿だった
アイベル「何かしら?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あのさ……。チョコ作ってきたんだけど……」
アイベル「チョコ?」
私の言葉を聞いて何か察したのか、アイベルが部屋の中を振り仰ぐ
何かを見て、あぁ、そういうこと、と呟いた
今日は2月14日、バレンタインだ
アイベル「で? 誰に渡すのかしら?」
ξ゚⊿゚)ξ「ぶ、ブーンに……。と、当然ドクにも渡すわよ? 義理だからね!」
本当は本命……いや、多少の好意が含まれているということを、悟られてはならない
アイベルはふぅんと、あまり興味が無いようだ
というか、女の子なのにバレンタインを忘れているとは……

86:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:02:10.32 ID:rlUn0EfG0
アイベル「それで、何?」
ξ゚⊿゚)ξ「え? あ、これ。食べて感想を聞かせて欲しいんだけど」
試食用にと、わざわざ小さなチョコをつめて持ってきていたタッパーを、バッグから取り出す
アイベル「義理なのにわざわざ手作りなの? 大変だったんじゃない?」
ξ゚⊿゚)ξ「た、たまたま暇だったのよ!」
本当は、自主トレーニングに当てるはずだった時間を使って作ったのだ
結局何度も失敗してしまったので、徹夜になってしまったのだが
アイベル「なんだか隈ができてない? 大丈夫かしら?」
ξ゚⊿゚)ξ「き、昨日は徹夜でトレーニングしてたのよ! それより早く食べて!」
相変わらず観察眼の鋭い人だ、と思いつつ、タッパーを押し付ける
アイベルは小さく溜め息をつくと、チョコを口へと運んだ
その様子をじっと見つめていると、くすりと笑らわれた
小馬鹿にされたような気がして、慌てて目を逸らす
アイベル「うん、なかなか美味しいわよ。これ、ビターのチョコかしら?」
ξ゚⊿゚)ξ「え? 甘めに作ったはずだけど。アイツ、甘党だから……」
アイベルの持っているタッパーに手を突っ込み、チョコをひとかけら取り出して口に放り込む
苦い……

87:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:03:05.32 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
アイベル「これはこれで美味しいわよ? 自信もったら?」
そう言いながら、アイベルはひょいひょいとチョコを口へと運ぶ
なんだか、悲しくなってくる
アイベル「ほらほら、こんなことで泣かない。きっとブーン君、喜んでくれるわ」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、そうよね! どうせアイツ貰ってないだろうし」
そう考えると、味はどうでもいいか、と思えてきた
大体、作ってやったのだから、感謝してほしいくらいだ
アイベル「なにをにやけているのかしら?」
アイベルがこつんと私の額を小突いた
ξ゚⊿゚)ξ「った! な、なにすん……」
抗議の声をあげようとすると、通路の端から声が聞こえてきた
そちらに目を向けると、ブーンとドクがトレーニングウェアを着て歩いてきていた
( ^ω^)「ツン! ツン! シュミレーター行かないかお?」
ブーンはこちらを見受けると、小走りで駆け寄ってきた
アイベル「あら、ナイスなタイミングね。渡してきたら?」
アイベルが背中をそっと押してきたが、動けない
無意味に口をパクパクとさせる

88:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:04:06.67 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「どうしたんだお? 行かないかお?」
ブーンが首をかしげながら、顔を近づけてくる
間近にブーンを感じて、心臓が勝手にどきどきと轟く
ξ゚⊿゚)ξ「い、いいわよ?」
( ^ω^)「うは! じゃあさ、じゃあさ! 今日もまた勝負しようお?」
ブーンが小柄な体をわさわさと動かして、興奮している
軍学校の訓練の中で、パイロット候補生に一番人気のあるトレーニングは、シュミレーターを使ってのMSの戦闘訓練だった
皆、それをいつも遊んでいるゲームの延長のように考えており、ほとんど娯楽施設となっていた
理由はともかくとして、教官はそれをいい傾向だ、と喜んでいる
実際、腕を競い合ったり戦術を考案するのに一役買っているので、消灯時間を過ぎてもそこは常時解放されていた
そういえばブーンは、最近新しい戦法を考えたと午前中の基礎訓練の途中に話し掛けてきて、教官にどやされていた
きっと、それを私で試したいのだろう
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あのさ、その……」
( ^ω^)「え? ダメ、かお?」
ブーンがツンの言葉を拒否と受け取ったのか、露骨にガッカリとしている
ちらとアイベルにフォローを求めて目を向けると、ドクとなにやら楽しそうに談笑していた
肝心な時に……!


92:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:07:22.89 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「べ、別にいいわよ? アンタなんかに負けたりしないけどね!」
ふふん、とふんぞり返って言ってやる
そう煽ってやると、ブーンはふひひ、と含み笑いをした
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、さっさと行くわよ!」
( ^ω^)「わかったおー。ほらドク、行くおー」
ブーンがドクに駆け寄って、袖を引っ張っている
ドクはアイベルと話すのに夢中になっており、ブーンが視界に入っていない
ほんのり顔が上気しているのは、風邪でも引いているからだろうか
('A`)「それじゃあ、また」
アイベル「ええ、頑張ってね」
会話を切り上げ、二人は一緒にこちらへ来た
( ^ω^)「ふふーん、今日はドクにだって勝てそうだお」
('A`)「そう簡単に勝たせてはやれないな。なぁ、ツン?」
ドクがいつになく上機嫌で言った
なにかいいことでもあったのだろうか
ξ゚⊿゚)ξ「当然よ。またいつもみたいに狙い打ち、よ」
ブーンに向けて銃を撃つジェスチャーをし、にやりと笑う
彼はそれに頬を膨らませて反論した
( ^ω^)「今日は負けないお! 秘策があるんだお」
ブーンの意気込みを聞きながら、シュミレータールームへと向かった


93:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:09:12.33 ID:rlUn0EfG0
二人との会話も程々に、シュミレーター室の中を見渡す
室内はちらほらと人影はうかがえるが、やはりというか普段の活気は無かった
これなら、チョコを渡すのも難しくはないかもしれない
( ^ω^)「なんだか今日、人が少ない気がするお」
('A`)「お前、今日何の日か知らないのか?」
( ^ω^)「へ?」
すっとぼけたブーンの返答に、ドクが溜め息を吐いた
軍学校で毎日同じトレーニングを続けていると、日付感覚が薄くなってくる
しかし、それでもバレンタインを忘れるのは、どうだろう
アイベルもだが……
それは結局、ブーンは私には何の期待もしていなかったということだ
物悲しくなってくる


94:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:11:36.93 ID:rlUn0EfG0
('A`)「バレンタインだ。今ごろ、みんな色々貰ったり渡したりしているんじゃないか?」
( ^ω^)「あー、バレンタインか!」
それを聞いて、ブーンがぽんと手をついた
( ^ω^)「というか、色々って何だお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ドク、色々って何よ?」
言い出しがブーンと被った
色々? バレンタインに渡すのは、チョコではなかったか?
ドクは再び小さく溜め息を吐くと、気にするな、と言った
( ^ω^)「それで、ドクは貰ったのかお?」
('A`)「ん? ……何人か持って来てくれたが、断った。甘いものは苦手でな」 
( ^ω^)「か、カッケー! ……てか、僕のために貰ってきてくれればよかったのに。チョコ食べたかったお」
('A`)「ああ……それもそうだったな。それで、お前は?」
( ^ω^)「…………」
('A`)「そうか……」
今の今までバレンタインを忘れていたということは、それを思い出させてくれる出来事もなかったということだ
情けなさに涙が出てくるが、ライバルがいないということは好都合だ
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あのさ……」
( ^ω^)「ええい! こういうときはスカッとするのが一番だお! 早速シミュレーターに行くお!」
伸ばした手をするりと抜けて、ブーンは管理人のところに行ってしまった
ドクにばれないように、小さく溜め息を吐く


95:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:12:40.02 ID:rlUn0EfG0
シミュレーターを使用するには、管理人を介して使用手続きをし、許可の下りたIDのカードを挿す必要がある
手続きは面倒なので、いつもブーンにやらせているのだ
先にシミュレーターのところへ行き、ドクとブーンを眺める
こんな日にここへ来たことをからかわれているのか、ブーンは頬を膨らませ、ドクがそれをなだめていた
しかし、こちらにやってきたブーンは、ご機嫌だった
( ^ω^)「ツン、手続きしてきたおー」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタ、なにニヤニヤしてるのよ」
( ^ω^)「チョコ貰ったんだお。あの人いい人だお」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
後ろでドクが苦笑いをしている
管理人は男だ
おそらく、慰みに食べきれないチョコを貰ったのだろう
……呆れて物が言えないという常套句は、このタイミングで使うのだろう
( ^ω^)「さぁさ、やるおー!」
今日何度目かの溜め息を吐き、やる気満々のブーンの後を追って、擬似コックピットへと乗り込んだ


96:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:13:45.28 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)<えっと、戦闘区域は宙域。重力は無しで……>
ξ゚⊿゚)ξ「デフォルトでいいわよ。早くしてよね」
( ^ω^)<わ、わかったお>
搭乗機体は、試作型"ハルパス"
保持武器は、それぞれが好きに設定して変られるようになっている
軍に正式に入った際、IDカードにあるこのMS改造のデータを見て、機体の武器を変えてくれるらしい
とは言ったものの、変えられる部分など、たかが知れたものだが
シミュレーター内部は、実際のコックピットのそれとほとんど同じように出来ているらしい
正面に広がるメインモニターの右上のマルチモニターの一つで、ブーンが喋っている
( ^ω^)<さぁ! 何処からでもかかってくるお!>
ありきたりな挑発をしてきたブーンに、右手に持っているビームライフルを撃ちかける
完全に油断していたのか、MSのコックピット部分に、光条は吸い込まれていった
MSは爆散し、また別の場所に出現した
ξ゚⊿゚)ξ「はい、撃墜1。なに? さっさとやられて逃げる戦法なの?」
苦笑いで誤魔化そうとしているブーンに、きつく一言
マルチモニター、ブーンの隣に映っているドクも、呆れ顔だ


97:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:14:30.18 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)<あ、や、その……>
ξ゚⊿゚)ξ「はー……」
( ^ω^)<き、気を取り直すお! もうツンの攻撃は一回も―――>
ふわぁ、と左手で口を隠しながら、無造作に発射ボタンを押し込む
ステータスモニターの撃墜数が、2になった
( ^ω^)<つ、ツン。手加減して欲しいお……>
ξ゚⊿゚)ξ「い、や、よ」
腰部にホールドされたもう一本のビームライフルを取り出し、二丁で構える
スッと目を細め、狙い撃ちにする
ξ゚⊿゚)ξ「ほらほら! またいつもみたいに撃たれて終わりよ!」
自分の間合いに敵を入れないよう動き、一射でMSを狙い、もう一射で進行方向を狙う
この行程を続けているだけで、相手は勝手に墜ちていく
シミュレーションで、もとい射撃戦で負けたことは無い
当然だ、努力している


98:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:15:17.80 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「遅いわよ、ブーン!」
( ^ω^)「あ、うは……っ!」
ブーンは機体を逸らし捻り、綺麗かどうかはともかくとして、上手く避けていた
私とシミュレーションを続けるうち、彼もなかなか上手くなってきていた
ξ゚⊿゚)ξ「ねー、アンタってさ」
射撃を止め、話し掛ける
( ^ω^)<な、なんだお?>
ξ゚⊿゚)ξ「なんだかアレよね。ゲームセンターでよく見かける、レバーとかボタンとかガチャガチャやってる小学生みたい」
( ^ω^)<な! し、失礼だお!>


99:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:16:28.30 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「はーい、撃墜さーん。そろそろ、戦法とやらを見せてもらえないかしら?」
( ^ω^)<うう……。卑怯だお、ツン……>
油断した隙に撃ちかけ、再びの撃墜
ドクはステージの端で、ぼーっと戦闘を眺めている
設定はデフォルトで行っているので、披撃墜の際にはそれなりの衝撃が走る
あれ、結構痛いんだよなぁ
( ^ω^)<背中が痛いお……>
ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、自業自得自業自得」
再びビームライフルを放つ
しかしブ―ンはそれを機体を回転させて避け、ビームサーベルを二本抜き払ってこちらを見据えた
( ^ω^)<こっからが本番だお>
ブーンが不敵な笑みを浮かべている
調子付いているのが気に入らず、ビームを撃つ
ブーンはそれをサーベルで弾き、柄頭をジョイントさせた
( ^ω^)<ふふーん、どうだお? 僕が考えた武器だお>
シミュレーションの際中で武器を考案し、それを教官なりに報告すれば、試作としてシミュレーターにプログラミングしてもらえる
試作のそれらは軍本部にも報告され、実際に採用されたり、それを考案した者を研究開発部に迎え入れたりすることがある
確か、ビームブーメランや、ロケットアンカーなどが実際に採用されていた気がする
採用されるのは、基本的に使いやすい武器だ
ブーンのそれは無理だろうな……


101:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:17:56.92 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)<そらそら! 行くお!>
ブーンが突進してくる
機体を後退させながらビームライフルを撃つと、ブーンはそれをバトンのように回転させ、ビームを弾いていった
ξ゚⊿゚)ξ「なっ!?」
( ^ω^)<うおしゃー!>
ぶんぶんとそれを回しながら突っ込んでくるブーンを避け、背後に回る
しかしその一射も、振り向きざまに弾かれてしまう
なんだ、あれは?
マニピュレーター自体を回転させているのか、指を器用にも操っているのか……
どちらにしろ厄介だ
はっと気がつくと、ブーンの機体が肉薄していた
ξ゚⊿゚)ξ「あっ!」
( ^ω^)<ツン、覚悟ー!>
ブーンが、ビームサーベルを振り降ろす
その瞬間、機体は爆散した
ブーンの機体が
爆煙がおさまると、再びMSが出現した


103:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:19:17.83 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり、やると思った」
( ^ω^)<…………>
両刃にしたものを普段どうりの意識で扱えば、自分にダメージがあるに決まっているではないか
両刃刀は、扱いがとてつもなく難しいものの一つだ
剣が鉄でなく、触れたもの全てを切り裂くビームなら、なおさらだ
考案しておきながら、そのことを頭に入れていなかったブーンに呆れる
教官もよくGOサインを出したな……
( ^ω^)<い、今のは冗談だお……>
言い訳を垂れるブーン
再びサーベルを連結させると、それをまわし始めた
( ^ω^)<で、でもこれは凄いでしょ? ずっと練習してたんだお!>
ξ゚⊿゚)ξ「まあね。……でも、いちいち攻撃する時に連結を解除してたら、その瞬間にやられるわよ?」
( ^ω^)<むぅ……>
二人で会話を続けていると、ドクが機体を駆ってこちらへと寄ってきた
ドクはMSの武器を、デフォルトのままにしている
彼は身体能力こそ一般的だが、MSの操縦にかけては光るものがある
未だに彼から、引き分け以上の戦績を勝ち取ったことがない
('A`)<さ、そろそろ俺も参加させてもらうが、いいか?>
( ^ω^)<お、おう>
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、バトルロイヤルね。いくわよ!」
ツンの掛け声とともに、それぞれがさっと距離をとった
誰からともなく光条が放たれ、模擬戦闘がはじまった


104:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:20:28.84 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「あー、疲れた……」
('A`)「もう少しスラスター効率を上げた方がいいかもな……」
( ^ω^)「…………」
シミュレーターから出て、近くのベンチへと腰をおろす
壁にかけられた時計に、ふと目をやる
PM11時30分
PM6時頃にシミュレーターに入ったから、大体5時間か
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ披撃墜王さん、喉が渇いたわ」
( ^ω^)「むぅ……」
服のポケットから小銭を取り出し、ブーンに手渡す
近くの自販機へと走っていったブーンを見とどけた後、胸元のホックを外して体の熱を逃がす
隣に座ったドクは小型の端末を取り出し、IDカードを挿して何かやっていた
全く、その熱心さには呆れる


105:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:21:17.22 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「買ってきたお!」
ξ゚⊿゚)ξ「アンタ、これ……」
( ^ω^)「お?」
ブーンが手に持っているのは、炭酸飲料だった
ツンは炭酸飲料にどうも慣れず、未だに飲めないでいた
( ^ω^)「あ、ツン炭酸ダメなんだっけ? 子供っぽいお」
ξ゚⊿゚)ξ「ち、違うわよ! な、なんていうか、その……甘すぎるのよ!」
( ^ω^)「僕は甘いの好きだから、平気だお」
そう言いながらプルトップに手をかけ、飲み始めた
甘いものが好き
甘い……?


106:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:22:17.52 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「あああぁぁぁ!」
( ^ω^)「ぶはっ! ど、どうしたお!?」
盛大にドリンクをシミュレーターに吹きかけてしまい、あたふたとしているブーンを他所に、持ってきていたバッグに手を伸ばす
しまった、本懐をすっかりと忘れていた
しかし、気が動転していたのかバッグの底をつかんでしまい、バラバラと中に入っていたものが落ちてしまった
ξ゚⊿゚)ξ「あっ!」
( ^ω^)「ん? どうしたお?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ……」
ブーンがこちらへ寄ってくる
何かを落としたりすると、いつも率先して拾おうとしてくれる優しいところを、今は恨めしく感じる
格好悪い、こんなの
( ^ω^)「あ、これ、なんだお?」
二つ作ってきたチョコの包みを、ブーンがひょいと拾い上げて言った
ドクも方眉を上げながら、こちらを見ている
( ^ω^)「あ! もしかしてチョコかお!?」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、そうよ……」
ぼそりと呟くと、ブーンがチョコをこちらに渡した
( ^ω^)「それで、どっちをくれるんだお?」
手許にあるチョコの包みは、大きさも華美さもかなりの差がある
中のチョコは大きさこそ違うものの、味は同じだが
こっそりと別々に渡すつもりだったのに、その計画は水泡に帰してしまった


107:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:23:20.38 ID:rlUn0EfG0
ξ゚⊿゚)ξ「え、あ……。ど、ドク、これ」
('A`)「ん? 俺が大きい方でいいのか?」
目を合わせないように、顔を赤くしながら渡す
ドクに大きい方を渡してしまった
ブーンが落胆を表に出しているが、致し方ない
好意を気付かれるわけには……
('A`)「悪いけど、俺甘いもの苦手なんだ。……だから、そっちの小さい方が欲しいな」
ドクが口元を微かに持ち上げながら言った
ツンもそのほうがいいだろ? と小声で付け足され、更に顔を赤くする
ξ゚⊿゚)ξ「じゃ、じゃあ……」
ドクに小さいものを渡しなおし、ブーンに大きい方を渡す
ξ゚⊿゚)ξ「ど、ドクが小さい方がいいって言ったから、こっちをあげるわ」
( ^ω^)「うはー! ありがとうだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「べ、別に。暇だったから作ってあげたのよ」
言いながら、時計にちらと目をやる
PM11時56分
よかった、間に合った……


109:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:23:45.88 ID:rlUn0EfG0
( ^ω^)「うは、手作りかお!」
ブーンがわさわさと手をばたつかせて喜んでいる
ξ゚⊿゚)ξ「お返しはプリンでいいわよ。大きいのね」
すまし顔で言おうと努めたが、自然と顔がほころんでしまった
( ^ω^)「あ、ビターチョコだお! 美味いお!」
('A`)「ん、なかなか美味い……」
結果オーライ、というやつだろうか
早速ベンチに座ってチョコを食べ出した二人を眺めながら、思う
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、もう少し味わって食べなさいよ」
( ^ω^)「ちゃんと味わってるお。美味し美味し」
本当に嬉しそうにしているブーンを見て、こちらも釣られて笑顔になる
いつか戦場に行っても、こうやって笑いあえたらいいなと、心から思う
いや……
きっと、笑っていられる
いつまでも一緒に



112:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:26:33.94 ID:rlUn0EfG0
そう、思っていた
あんなに一緒だったのに
それなのに
彼は違う所へ行ってしまった
もう涙も出てこない
諦め、割り切ったから
柔らかなベッドに体を預け、膝を抱く
今は敵を殺すことだけを考えろ
後悔ならいつでもできる
今私は軍人で、宇宙民の平和ため戦っている
殺せばいい
邪魔なら殺せばいい
殺せばいいんだ
アイベル「なにをしているのかしら、うずくまって?」
死んだはずの人間の声が聞こえて、驚いて顔を上げる
ただいまと微笑む彼女を見て、ツンは一瞬呆けた顔をして、顔をくしゃりと歪めた


113:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:27:41.60 ID:rlUn0EfG0
アイベル「彼に会ってきたわ」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
二人は、ベッドに腰をかけて話をはじめた
しばらく黙り込んでいたが、アイベルが沈黙を破った
アイベル「彼ね……」
ξ゚⊿゚)ξ「……聞きたくない」
アイベル「え……?」
ツンがブーンについて知りたがっていると思っていたアイベルは、思いがけない拒否に動揺した
少し困り顔なりながら、アイベルは小さく溜め息をついた
アイベル「なんでかしら」
ξ゚⊿゚)ξ「いまさら知って何になるって言うの? ……敵のことなんか」
ツンにはわからなくなっていた
何が正しくて、何が正しくないのか
皆を守ること、敵を殺すこと
……ブーンを殺すこと
全てが線で繋がっている
皆を守るには、敵を殺さなければならない
敵は、ブーンだ
『俺達の仲間は、ブーンだけじゃない!』
わかっている
わかってはいるが……


116:ダメな子 ◆L3bTxC/JR6 :2006/03/15(水) 01:29:02.39 ID:rlUn0EfG0
アイベル「ツン……。あなた、どうしたの?」
ξ゚⊿゚)ξ「どうもしないわよ……。それより戦闘はまだなの? 待ち伏せているんでしょう、あの艦を?」
アイベル「ツン……」
仲間はブーンだけじゃない
だから、それがどうしたというのだ
顔も名前も知らないような人間達のために、何故私が辛い思いをしなければならないのだ
私の世界は、ブーンがいてこそなのに
ξ゚⊿゚)ξ「ドクのところへ行きましょう。ブリーフィングをするわよ」
なら、私の世界のために、アイベルやドク、宇宙の友達を皆、切り捨てられると?
出来ない
出来るはずがないのだ
柔らかいベッドから立ち上がり、上着を羽織る
―――ならばせめて、私が討つ
アイベル「…………」
アイベルが悲しそうに眉をひそめている
彼女にもわからないのだ
何をどうすれば、昔に戻れるのかが
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【2006/03/15 08:47 】 | ( ^ω^)ブーンはガンダムのパイロットのようです | comment(0) | trackback()

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